憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。


 よって、

「ベリが丘総合病院の羽倉先生ですか!?」

 と、周りにいたマダムやセレブが俺の元へ近寄ってきてしまった。

 今すぐにでも追いかけたい。けれど、このセレブたちを無下にはできない。

「……仁田先生……」

 俺が目で訴えると、仁田先生は大きく頷いた。

「亜矢ちゃんを連れ戻してきます! 行くよ、柳せんせー!」

「はっ、はいよ!」

 柳先生は仁田先生に言われるがままに、俺の元を去っていった。

 こんなに『今しかない』と思ったことはない。こんなに求めるのもきっと彼女だけだ。

 仁田先生には俺の気持ちは見透かされていたようで、何も言わなくても理解してくれているようだった。

 私情で誰かにこんなに感謝したのは初めてかもしれない。

 戻ってきたら、たらふくご馳走させてもらおう。


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