憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
仁田先生の話を聞いて唖然とした。
いや、友人が亜矢ちゃんの財布からお札を取った時から違和感はあったけれど、お金を取られた挙句、ベリが丘駅で降ろされていただなんて、聞いただけで怒りが込み上げてくる。
「お金の工面は私がしときましたんで、羽倉先生はご心配なさらずに! 心のケアはお任せしますね」
仁田先生は既に亜矢ちゃんのサポートをしてくれていた。仁田先生はサバサバしていて男ウケはあまり良くないと聞くが、同姓や患者さんからはすごく良い先生だと評判が高い。
俺も仁田先生と柳先生は唯一、信頼して頼れる人達だ。
亜矢ちゃんの心のケア……俺にできるだろうか。彼女は俺を頼ってくれるだろうか。
亜矢ちゃんは「あの」と声を出した。
「仁田先生、柳先生、羽倉先生、ご心配おかけして申し訳ありません。ありがたいことに仁田先生から十分すぎる大金をいただきましたので、お食事が終わったらここへタクシーを呼んで帰宅しようかと思います。心のケアも、先生達が怒ってくださったのでもう大丈夫です」
「仁田先生、連絡先交換していただけますか?」と、仁田先生にスマホを差し出す亜矢ちゃん。
寂しそうに笑う笑顔は、俺がずっと写真で見ていた彼女の面影はなかった。