憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
「大丈夫だよ。そういえば亜矢ちゃん、仁田先生からお金頂いたって言ってたけど、いくらもらったの?」
問いかけられたため、バッグを開けて財布の中を見せる。
「百万です」
「それ、仁田先生に返していい? ちょうど酔っ払ってるし、そっと財布に入れときたくて」
「あ……は、はい」
『でも、帰る手段が』と言いかけたところで、自分のことは自分でどうにかしろよと思われることが怖くて口を閉じる。
「そんなに心配しなくていいよ。ただ、仁田先生にこれ以上の借りを作りたくないだけだから。借りが積もったらこの人『あの時さー』って掘り返しては、無理なお願いし出すから。亜矢ちゃんが必要なお金は俺が出すし」
「なにからなにまでスミマセン……」
財布から札束を取り出し羽倉先生に渡すと、羽倉先生は仁田先生のバッグから財布を取り出し、百万の札束をねじ込んだ。
「そういえばお酒飲んでなかったけど、飲まなくて大丈夫だった?」
私がお酒を飲んでいないことを気にしてくれているようだった。
「はい、羽倉先生も飲んでいなかったので」
「俺は今日オペだったから。明日も仕事だし、車の運転もあるしね」
「オペ……脳の血管を縫合する手術……ですか? すみません、先生達がいらしたときの会話が聞こえてきたので」
「そう。手術はなんとか成功したんだけど、病院から呼び出されてもすぐに向かえるように酒は控えてただけ」
「お疲れ様です。でも……仁田先生や柳先生はお酒飲んでましたが、呼び出しは……?」
「ありがとう。呼び出しくらっても病院内にいる先生達に手伝ってもらってなんとかしようと思ってたから。柳先生と仁田先生にもたまには息抜きくらいさせてあげないといけないからね。それに、仁田先生には特に恩があるし」
他人のことばかり心配している羽倉先生は、息抜きできているんだろうか。