憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
私に気遣いながら羽倉先生はお風呂へと向かった。
リビングに置いてある黒色の革のソファーへと腰掛ける。部屋の中は暖房が効いていて暖かいが、ソファは革のせいか、生地に触れるとほんのりと冷たさを感じる。
羽倉先生が過ごしている環境はとても豪華で、まさに『こういう生活がしてみたい』と思っていた夢のような空間だけれど、いざ、自分がその状況になったらこの広い部屋に一人は寂しい気がする。
ふと、テーブルに目を向けると、羽倉先生の手帳から一枚の写真が見えた。写真のサイズピッタリの厚めの保護カバーに大事に入れてある。その写真を手に取ると、写っていたのは小さい頃の私と亡くなったお爺ちゃんだった。
この写真は実家にも大切に飾られてある。
お爺ちゃんが羽倉先生に渡したのだろう。
羽倉先生は、私がお爺ちゃんと接点がなければ『咲村亜矢』と聴いても興味を示さなかったはずだ。
お爺ちゃんが羽倉先生との縁を結んでくれたんだと思う。
しばらく写真を眺めていると、お風呂場からドアが閉まる音が聞こえてきたため、そっと元の位置に戻す。