憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。


 運転手もわざわざ私の方へ駆け寄り、「大丈夫ですか? お荷物降ろしますね」と声を掛けてくれた。まるでセレブ扱いだ。

 バスから降り、運転手からスーツケースを受け取る。

「お気をつけくださいませ」

 運転手からペコッと頭を下げられ、バスは静かに走り去っていった。すぐに莉緒香に電話を掛け迎えに来てもらう。

 十分ほどで一台の黒くてお高そうな車が私の前に停まった。車の真ん中に「R」という、見たことがあるロゴが付いている。

 スーツを着た男性運転手が運転席から降りてきて、「大変お待たせ致しました。咲村様でお間違いないでしょうか?」と私に問いかけた。

「――はい!」

「西園寺家の専属ドライバーです。この度は長旅ご苦労様です。こちらへお乗りください」

「ありがとうございます」

 白い手袋を着用した手で、後部座席のドアを開けてくれた。中には華やかなセレブの服を着飾った莉緒香がいて、私を見て「久しぶり」と、手を振ってくれた。

 莉緒香の化粧はとても濃く、赤い口紅が印象的で、セミロングの肩までの巻き髪がかわいい。

 高校の時から良く知る莉緒香のはずなのに、莉緒香が莉緒香と思えなくて、苦い笑みを浮かべて笑いを返す。


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