憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
さっきのイタリアンの食事のお会計も全て仁田先生が出してくれた。
食事に、化粧品に、財布に、バッグに、洋服に。全て高価で、いくら仁田先生が裕福な家庭の出だからといってもこんなのは甘えすぎている。
「そこに座って待ってて」と言われたためソファに腰掛ける。
仁田先生は両手に温かいコーヒーを持って戻ってきた。
「連れ回しちゃってごめんねー、疲れてない? はい、これ」
仁田先生から差し出されたコーヒーを受け取る。せめてコーヒー代くらいは私が出したい。
仁田先生の前でバッグから財布を取り出すと、「いいのいいの! 今日付き合ってくれただけで嬉しいから」とお金を受け取ろうとはしなかった。
「ありがとうございます。仁田先生決断力早いので全然疲れてないです」
「本当? 私、こんな風に誰かのためにお金って使ってこなかったからさ、亜矢ちゃん妹みたいでかわいくてつい、ね」
………妹。
仁田先生の家族構成を聞いていいのだろうか。
でも、気になる。今聞かなきゃずっとモヤモヤしたままだ。そう思い、
「仁田先生、妹さんは?」
恐る恐る質問をした。
仁田先生は「それがねー」と笑いながら口を開いた。
「いないのよ。一人っ子。だから、妹がいたらこんな風にお買い物したいなって思ってたの。まあ、亜矢ちゃんは妹っていうより友達って感じなんだけどねー。ところで、亜矢ちゃんお仕事とか何にしてるの?」
仁田先生は私と同じく一人っ子だった。
「仕事は今していなくて、帰ったら探す予定なんです」
「前は何してたの?」
「前は美容のアシスタントをしてました。ですが、目眩や立ち眩みが前より酷くなり、立ち仕事がキツくなったんで仕事をやめて今は療養してます」