愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】






私の右手は、先月から筆をとることが出来なくなった。




最初は軽い痺れを伴う程度のものだった。

それがふと気付けば、筆を持つことは愚か、自分の靴さえ持ち上げられないほどにまで成り下がっていった。



医者の言う通り、ビタミン剤や薬で治療もした。

放課後の書道以外、極力右手を使わないように大事にしてきた。




けれど、あの日──。



「じゃあ教えてよ、葉ちゃん」

「……何を」

「なんで俺達が出会ったあの日、あんな夜中に物騒な裏路地にいたのか」






けれどあの日、医者は言ったんだ。

『この痛みと、キミは一生向き合わなければならない』と。



< 14 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop