愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
私の右手は、先月から筆をとることが出来なくなった。
最初は軽い痺れを伴う程度のものだった。
それがふと気付けば、筆を持つことは愚か、自分の靴さえ持ち上げられないほどにまで成り下がっていった。
医者の言う通り、ビタミン剤や薬で治療もした。
放課後の書道以外、極力右手を使わないように大事にしてきた。
けれど、あの日──。
「じゃあ教えてよ、葉ちゃん」
「……何を」
「なんで俺達が出会ったあの日、あんな夜中に物騒な裏路地にいたのか」
けれどあの日、医者は言ったんだ。
『この痛みと、キミは一生向き合わなければならない』と。