愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】




瀬名川と私が出会った、その数時間前に宣告されたそれ。



医者が言う、向き合うってなに?

そんなくだらない結論が聞きたくて、アンタの前に座ったわけじゃない。



この邪魔な痛みを、取り除けって言ったのに。

いや、取り除かなくていい。せめて筆を、握れるようにしてって……そう、言ったのに。




医者がダメだと言うのなら、この痛みごと抱え込もうと無理やり筆を揮ってみたけれど、小刻みに震えるこの無能な右手は最初の押しでさえまともに書くことをしなくなった。





「深いところを聞くようだけど、いつもあんなところにいるわけじゃ……ないよね?」

「消えてしまおうと、思ったから」

「……」

「まだ私が経験してないことの思いつく限りを考えて、一つずつ経験して……もう、消える予定だった」







父親は、私の右手を見て落胆した。

母親は、私の右手を見て泣いた。

二歳年下の妹は、私のソレを見て「これでアンタの取り柄はなくなったね」と言って笑った。




< 15 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop