愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
それまで私にとって生きる道は書道であり、希望だった。
書道だけを見て、周りを蔑ろにしたって見てくれる人はみんな私を褒め称えた。
たくさんの賞をもらうたび、個展の話を持ちかけられるたび、私はまた一つ鼻を高くしてこの世界に没頭した。
人が人生を歩むに連れて培っていくものを何一つ持っていなくても、私は私でいられた。
そんな私の、"唯一無二"だったモノがなくなった。
父親が「期待外れだった」と言ったのは当然のことで、「どうして……っ」と言葉を詰まらせた母親のあの表情はこれからの不安で、無様だと言いたげに笑った妹の態度は、これまでの私に対する罪だった。
筆を握れなくなった私に残ったものなんて、何一つない。空っぽ。
それに気付いたら最後、言葉では言い表せられない虚無感はそれまでの私を殺しにかかった。