愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】



なんで……っ、なんで瀬名川にそんなこと言われなくちゃいけないの。


ほんの一週間前までいたあの輝かしいステージから落ちた私の、今の気持ちをそんなちっぽけな言葉で悟らせようだなんて百年早いんだよ。




何も分からないくせに。

何も知らないくせに。



この右手が使いものにならなくなった時の苦しみも、治らないと言われた時の衝撃も、あれだけ重宝されてきた書道という道を閉ざされた時の絶望も、何も分からないくせにどんな顔してそんなことが言えるの?



何で、なんでこの私がアンタなんかに愛されなきゃならないの。

愛なんて要らない、欲しくもない。



今必要なのは──……愛なんかじゃないんだ。





「ねぇ葉ちゃん。今日は俺の家に来るって約束だったでしょ?」

「……それが?」

「ここ、俺の家だよ」

「……っ!?」





彼が「ここ」と言って凭れた壁。

昔ながらの厳格そうな、重みのある石垣で囲まれた塀。

見渡す視界に入りきらないほどの、大きな家。





そしてそこには──。





……あぁ、そうか。

これは私の、天罰だ。






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