愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
『文字と姿勢にひと目惚れした』
『脆かった』
『結婚したい』
『芯の通った子』
『ほとんど想像通り』
瀬名川が放った言葉の一言一句が、頭から離れない。
惨めだ。
悔しいくらい、惨めだ私。
「──だから葉ちゃん。俺のところにおいでよ」
「……っ」
「キミの手で筆を握ることはできなくなっても、俺の手を握ることくらいはできるよ」
「……やめて、お願い。しんどいから」
「葉ちゃんの手は、筆を握るためだけにあるんじゃないでしょ。書道なんて所詮書道なんだよ。葉ちゃんの全てじゃない」
「瀬名川、お願い……やめて」
「俺は書道の家に産まれたけど、書道家になんて絶対ならない」
「……は?」
「書道のせいで俺の母親はいなくなったから。葉ちゃんまで失わせはしないよ」