愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
うっすらとぼやけた記憶の片隅に、彼がいた。
あの日、すべてがどうでもよくなって、一人夜道をさまよっていたとき、下心満載な笑みで手を差し伸べてきたどこぞの男の手を取ろうとしたとき、待ったと声をかけてきたのが多分……彼だ。
『……え、えぇ!?キミ、葉ちゃんだよね?』
『こんなところで何してんの……て、聞くまでもないか』
『俺さ。実は葉ちゃんのことずっと狙ってたんだよねえ』
『だからキミには極力嫌われたくはないんだけど』
『んー、でもごめんね?俺今から全力でキミをその男から引き離しにかかるわ』
そんなことを言いながら、彼はフラついていた私を救った、いや、拉致したんだと思う。
朧げな記憶を掻き拾って、集めて、繋げた先。
「……アンタ、瀬名川 祥?」
「……ご名答、葉ちゃん。思い出してくれたみたいでなにより」
振り向いた先にいた彼は、ニッコリと笑って──……そしてクッと口角を上げた。