愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
私が突然、書道部に顔を出さなくなった原因を聞きに来る部員は誰一人としていなかった。
そもそも個人での賞にしか興味がなかったから、大きな筆と大きな紙で綴る団体的なものは好まなかった。
最初から書道部の人達と関わることをしなかったし、きっと好き勝手に活動していた私のことを、疎む人はいても好いてくれる人なんていない。
「──え、え、まさか一人で帰るつもりじゃなかったよね?違うよね?ねぇねぇ、葉ちゃん?」
「……瀬名川、祥」
「名前呼んでくれるのは嬉しいけどフルネームは嫌だな」
「瀬名川」
「ハイ却下!やり直し!そんな低い声で苗字呼び捨ては怖いです!」
どこかで聞いたことのある、この名前。
……一体、誰?
今までこんなチャラチャラした風貌の男に興味を持ったことがないから知るはずもないのに、どうも彼の苗字に引っかかる。
当の本人は全く何も考えていないようなヘラヘラとした表情で笑いながら、靴箱までの道のりを一緒に歩いた。