仮定法過去の恋〈下〉
舞子は薄い唇は開いたり閉じたりを繰り返している。


浅い呼吸で胸元のリボンが揺れる。


声を出したくても出せない人魚姫のようだ。



最期の蝉の声に、蜩の声が混ざり、ずっと耳にしていると上下左右の感覚がなくなってゆく。



「由実ちゃんは未来でどうなっていると思う」
「へ?」
「急にごめん。でも聞いておきたい」


砂のように小さな声だった。
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