仮定法過去の恋〈下〉
「どうなってるって……」


どうしたいではなく、どうなっているのか。
そんなことは分からないし、考えても仕方ないと由実は思う。

「親のすすめでとりあえず上の学校には行くけど」
「その後は?」

「ん~。どうだろ。主婦をするのもいいし、働くのもいいかな。近ごろは女性が働けるところも増えたし。そういう舞ちゃんは?」

「上の弟が親戚筋から上京して来ないかって養子に誘われているの。それで、落ち着くまで身の回りの世話をしてくれないかって頼まれたの」

「舞ちゃん、上京ガールになっちゃうの」


なにそれって顔を見合わせて笑った。舞ちゃんがやっと笑ってくれた。

「それで、泣いてたの」


ううん。彼女は腰掛けた木板の縁を握りながら、足を揺らす。




「由実ちゃん、今から話すのはお伽話だと思っていいからね」




舞ちゃんが話始めたことは到底信じることはできなかった。


だけど。



――私、思ったより恭平さんが好きだったみたい。


そう涙する舞子は恋に本気だった。


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