仮定法過去の恋〈下〉
分が悪い恭平をつついてみたが、これ以上は藪蛇になる。出来る女子はその加減を心得ているものだと陽菜は思う。
図書室で騒ぐのは、仲良しの司書の先生にも申し訳ない。
「茶道部で毎年着てるだろ。だから知ってると思って」
陽菜が副部長を務める茶道部では、毎年、文化祭では1階のエントランスでお茶会を開催するのが伝統になっていた。
「まあ、手ごろなところだと、しま〇〇とか、イ〇〇に行けばって感じだけど。まあ、夏休みも終盤に入ったから、もうだいぶ少なくなってると。その代わりにセールで安くなってるかもしれないけどね」
「そっか……」
「うちの部でも浴衣を新しく揃えるときは6月から7月に入るあたりに買ってもらってるからね。夏祭り終わるとなくなっちゃうし。来年、インシーズンになってから買う方のをおすすめするかな」
来年の夏。舞子さんは高校を卒業した後のことだ。
その前にプレゼントを送れる関係に俺たちはなっているだろうか。
「どうしても、今年ほしいんだよな。できればネットじゃなくてお店で」
スマホの画面に映る浴衣を舞子さんに合わせてみても、なんだか上手くいかなかった。イメージを膨らませるためも実物が見たいと思った。
「あっ!もしかしたら、駅裏の着物屋さんには置いてるかもしれない。値段はまあまあするけど、着物屋さんにしては良心的な値段だから」
陽菜はマップのアプリで、場所を示してくれた。
「あのさ、よかったらうちも一緒に行こうか」
思ってもいない提案に陽菜の顔をまじまじと見る。