仮定法過去の恋〈下〉
「舞子さん、覚えていますか。恭平です」
舞子さんの目が見開かれる。



「今年の夏、舞子さんにとってはもう何十年も前になりますけど、英語教えてくれてありがとうございます」


しわしわになった舞子さんの手を握る。



「仮定法はできるようになった?」
「はい、まだ苦手ですけど。
ちゃんと英語勉強しようって思って、今は居残りもしていません。舞子さんのおかげです」

「俺のこと覚えててくれてありがとうございます」

「忘れるわけないわ。突然お別れしてしまって申し訳なかったわ。
でも、あなたと私じゃ、過ごしている時代が違うと気づいて……。
あなたには何も言わずになかったことにしようと思ったの……。本当にごめんなさい」


「でも、今日、会えてよかったです。本当に」

「覚えてますか?If I had loved you , 」


『We would (have) (been )happy .』



ふたりの声が重なる。
恭平にとっては、数か月振りに。
舞子にとっては、半世紀以上振りに。




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