初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「あ、えっと……」
 
 湊はないはずのものを探して、ポケットをまさぐり、カバンに手を突っ込み、言葉を詰まらせた。あるのはシャーペンと消しゴムくらいか。こんなので部活動に参加するつもりだったなんて言ったら、追い返されるに違いない。
 
「すみません、俺やっぱ帰りま……」
 
「ここに座ってくれる?」
 
 突然の言葉に湊は思わず聞き返した。
 
「え?座る?」
 
「うん、私の前に座って。どんなポーズでもいいから、楽な姿勢で」
 
 言われるがまま前に座った湊をじっと見つめ、紫遥は楽しそうに筆を取った。
 
「今日はなぜか何も描く気がしなかったんだけど、君を見て急に描きたくなった」
 
 「俺、ですか……?」
 
 「うん、不安そうに部屋の前で立ってる姿がすごく……可愛かったから」
 
 「可愛っ……!?」
 
 高校生のわりに大人びた顔つきに、彫りの深く整った顔、さらに小さい頃から「男らしくあれ」と言われ育った湊は「かっこいい」と言われることはあっても、「可愛い」言われたことなど一度もない。

「可愛くなんかないですよ……俺、男なんで」
 
 湊は拗ねたように顔を逸らしてそう言ったが、紫遥はそんな湊の様子を気にもとめない様子で手を動かし続けた。
< 10 / 258 >

この作品をシェア

pagetop