初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

15　妬む女

　安藤香奈子は、噂されていると知りながらも、黙々とパソコンに向かって仕事を続ける紫遥の顔を遠くから睨みつけた。

　噂が本当だとしてもデマだとしても、何かしら反応すれば可愛いものなのに、紫遥は自分のことであるのにも関わらず、まったく興味を示さない。その冷めた態度が鼻につくのだ。
　



　香奈子が紫遥を疎ましく思い始めたのは、紫遥が派遣社員として入社した半年前のことだった。

　紫遥が来る前は、洗練された女性らしいファッションに、小柄で可愛らしい顔立ちの香奈子が、男性社員にチヤホヤされていたし、自分が微笑みかければ大体の男は喜び、自分に気があるのではと浮き足だっていた。社内の男たちは常に自分にどう見られるか、を意識していた。

　それなのに、紫遥が来た瞬間、社内の雰囲気は一気に変わってしまった。

　紫遥は香奈子より地味で化粧っ気もなく、ついでにいうと愛嬌もなかったが、誰もが通りすがりに振り返ってしまうほど、美人だった。

　ブランドものを身につけていなくても、キラキラしたアイシャドウや色の濃いリップで顔を引き立たせなくても、紫遥はその洗練された美しさで、一際目立っていたのだ。
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