初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 だからこそ、男たちは皆、紫遥に直接話しかけたり誘ったりすることはなく、遠くから彼女の一挙手一投足を眺めて満足していた。

 香奈子はあわよくば付き合いたいくらい可愛い女の子、紫遥は自分なんかが近付いて良いわけがないと、遠目から眺めるだけの高嶺の花。

 香奈子にとって、それが最大の不満だった。



 しかし幸か不幸か、香奈子は紫遥よりずっと恵まれている。冷静になってみれば、紫遥はいつも同じような服を着て、ランチに行く金もないくらい生活が苦しいのだ。それなのに、自分とは違い、いつクビを切られるかわからない派遣社員。そして、頼れる結婚相手もいない。

 対して、裕福な家庭で育った香奈子は、幼い頃から金には困ったことがないどころか、欲しいものはなんでも手に入った。暇だからという理由で働いてはいるが、毎月欠かさず親が仕送りを送ってくれるので(それも給料よりはるかに多額の)働く必要もなかった。

 
 顔の広い父に頼めば、誰もが羨むような相手とお見合いすることは容易であるし、そうでなくても今までの人生で男に困ったことは一度もない。
 
トータルで見れば、自分の人生の方が紫遥よりはるか上のレベルなのだ。
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