初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 だがつい先日、紫遥が遠くから見てもわかるくらい魅力的な男と一緒にいるのを見て、その考えはガラリと変わった。

紫遥はただの知り合いと言っていたが、あの様子じゃ何か隠しているのは明らかだ。恋人ではなくても、友達以上恋人未満のような関係なのかもしれない。そう思ってしまうくらい、ロビーで話し込む二人からは深刻なムードが漂っていた。

 
 そして極めつけは、今朝、紫遥が高級リムジンから降りてきたという話をほかの社員から聞いたことだ。

 毎日同じような無地の服を着回していたのも、かたくなに外にランチに行かず、毎日手作りの弁当を食べていたのも、全て金持ちが庶民に混じるためのパフォーマンスだったのだろうか。

 そう思うと、香奈子はさらに紫遥に対しての苛立ちが大きくなり、無意識に手の甲を長い爪で掻きむしる。

 そんな香奈子の後ろでは、二人の男性社員がさっそく紫遥の噂話を始めた。
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