初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 そんなことを考えていると、コートを羽織った湊が紫遥の方に駆け寄ってきた。

「お待たせしました」

 急いで着替えてきたのか、息を切らした湊は、撮影終わりで髪のセットやメンズメイクを施しているからか、いつも以上に煌びやかに、そして自分が隣に並ぶにはあまりにも美しく見えた。

「じゃあ、行きましょうか。あ、けどその格好じゃまずいかもな……。控え室に着替えがあるので、持ってきます。好きなブランドとか、何かこだわりありますか?」

「えっ?家に帰るだけでしょ?なんで着替える必要があるの?」

 そんなにひどい格好をしているだろうか、と心配になって自分の服を見るが、いつも通り白のブラウスにベージュのスラックスというシンプルな格好だ。

「いや、帰る前に少し寄りたいところがあるので」

 もう夜の二十三時を過ぎている。今から寄りたいところとは一体どこなんだろうか。考えても見当もつかない。

「真夏ちゃんには連絡してあるので安心してください。とりあえず、行きましょう。こっちです」

 そう言ってスタスタ歩き始めた湊の後ろを、紫遥は小走りでついていった。




 湊に渡されたダークパープルのワンピースを着て、タクシーで向かった先は、麻布十番の奥の通りにひっそりと店を構えるシックなバーだった。
 個室に案内されると、湊はサングラスとマスクを外し、ふぅーと一息ついた。

 「ここ、行きつけの会員制のバーなんです。記者とかは入れないようになってるので、安心してなんでも話せます」

 「そうなんだ」
< 119 / 258 >

この作品をシェア

pagetop