初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 合コンに行くとは言ったけど、場所までは伝えていない。真夏が話したのだろうか。それにしたって、真夏も恵比寿の和食屋、ということしか知らないはずだ。

 それに、紫遥の最後の記憶は、合コンで隣に座っていた男が、紫遥を無理やりタクシーに乗せたところだった。
 
 あの男は一体、どこに行ったんだろう。

 

 湊は気まずいのか、紫遥から視線をそらし、「心配で迎えにきたんです」と、小さな声で答えた。

 湊の口から発せられた、「心配」という言葉にピクリと反応する。
 まだ篠原のことを気にしているのだろうか。篠原に何かされて、紫遥が事件にでも巻き込まれたりしたら、家政婦を失うどころか、また記者の恰好の的になる。湊はそんな状況になるのを心配しているのだ。
 

「ごめん、心配させて。けど、久我くんのおかげでもう篠原さんは東京にいないし、直接何かされることはないから大丈夫だよ」

「でも、結局変な男に連れて行かれそうになってるじゃないですか」

 そう言われ、紫遥の頭の中に、男に肩を抱かれ、抵抗もできずにヨロヨロと歩く、泥酔した自分の記憶が、津波のように一気に流れ込んできた。
 
 あの場面を、あのみっともなくて、情けない自分を、湊に見られていたのだ。
 恥ずかしさで、持っていたペットボトルをぎゅっと握りしめる。

「その男の人は、どうなったの?私、あんまり覚えてなくて……」

「帰ってもらいましたよ」

「えっ?どうやって?」

「俺が送っていくので大丈夫です、って言ったら、逃げ帰って行きました」

「もしかして、顔を見せたままで?マスクもせずに!?」

「はい」
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