初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「大丈夫なの?週刊誌に何か言われたりしたら……」

「どうにもなりませんよ。リークされたとしても、通りすがりで、性被害に遭いそうになっていた女性を助けた、っていう美談になるのが関の山です」

 確かにそれもそうだと、紫遥は納得する。
 
 どちらにせよ、また湊に助けられてしまった。あのまま湊が来てくれなければ、何をされたかわからない。途中で酔いが醒めたとしても、女一人で男に抵抗できるとも思わないし、また心と身体に傷を負うことになっていたかもしれない。
 
 本来なら、湊の役に立たなければいけないのは自分であるのに、逆に迷惑をかけている気がして、申し訳なさでいっぱいになる。

 
 湊と会ってから、こんなにも自分は弱かったのかと、自信をなくすことが増えた。
 真夏を守る1人の大人として、そして真夏が頼れる母親代わりとして、強く生きていこうと決心して、これまで生きてきた。上司に理不尽な理由で怒鳴られても、仕事で音を上げたことは1度もないし、家事と育児に終われ、自由な時間がなかったとしても、真夏の笑顔を見れるだけで、耐えられた。
 
 高校を中退してからはずっとそんな生活を続けていたため、学生時代にいた友人とはほとんど縁が切れてしまった。だけど、それでよかった。毎回誘いを断るのも気が引けたし、気を遣ってもらうのも辛かった。
 
だからこそ、職場では友人という友人を作ったことがない。あくまで仕事を円滑に進めるための同僚たち。プライベートなことは知る必要もないし、知られる必要もない。
 紫遥は1人でも十分に、たくましく生きていた。
 
 
 しかし、男性が絡むと、紫遥は突然無力になった。
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