初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 紫遥が周囲と距離をとっているのにも関わらず、何人かの人は紫遥の私生活に興味を持った。そして、それらの人は、ほとんどが紫遥に対して下心を抱く男性だった。
 
 前の派遣会社を辞めたのも、同僚の男性に毎日のように食事に誘われ、ストレスになっていたからだ。真夏に夕飯を作るために、なるべく早く仕事を終わらせて、帰らなければいけない。塾に通わせてもあげれないから、できるだけ空いた時間で真夏の勉強も見てあげたい。それなのに、毎日続く誘い。
 あの人たちは断る者の辛さがわかっていないから、あんなに無遠慮に誘えるのだ。

 しかし、断る理由をわざわざ説明して、変に同情されるのも、噂されるのも嫌だった。
 紫遥はそんなストレスから、今まで3回の転職を経験していた。
 
 

 
 ふと窓の外を見ると、渋谷のセンター街まで来ており、電光掲示板にはちょうど20:00と表示されていた。
 
「あ、そういえば今日、映画の試写会に参加する予定だって言ってたよね。もしかして、その帰りだった?」

 つい先日、湊に映画の試写会に誘われていたのだ。来月一般公開予定のその映画は、昨年本屋大賞を受賞し、絵画を題材としたミステリー小説を元にした作品で、大物俳優が多数出演していることもあり、観覧希望者が殺到したという。紫遥も何度かポスターで見て、気になってはいた。
 
 湊は仕事柄、関係者席を確保しており、誘っていた友人に断られたから、という理由で紫遥を誘っていたのだ。もちろん断られたというのは嘘で、紫遥のために無理に関係者席の枠を取り、そのあと食事するレストランも予約していたのだが。
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