初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 紫遥は合コンの約束があったため、断っていたが、行けなかったことを気がかりに思っていた。

「あー……それは、結局行く相手が見つからなかったので、友人夫婦に譲りました」

「そうなんだ……」

 自分のせいで湊の予定がキャンセルになったわけじゃないとわかり、紫遥はホッとした。

「とりあえず、このまま帰っても真夏ちゃんが心配すると思うので、代々木の方までぐるっと回ってから家に帰りましょう。その頃には顔色も良くなってると思いますし」

 紫遥はコクリと頷き、気持ち悪さがぶり返さないように窓の外を眺めた。
 
 ネオンの光に照らされた渋谷の街並みを見ていると、あるカップルが目に入った。よく目を凝らして見ると、カップルにしては歳が離れているようで、片方は高校生にも見えなくはない黒髪の若い女の子で、もう片方はメガネをかけた中年太りのおじさんだった。

 偏見はよくないが、やっぱり考えてしまう。
 あの女の子はあのおじさんに買われてしまったのだろうか。若い身体を引き換えに、お金を手にいれて、そして何かを失おうとしているのだろうか、と。

 紫遥は見ていられなくなり、視線を逸らす。
 最近立て続けに起こっている、男性がらみのあれこれで、美術部の顧問、山口との記憶が何度もフラッシュバックするようになった。

 山口は今も高校の教師として働いているのだろうか、とふと思う。教師が別の業種に転職することなど聞いたことがないし、おそらく変わらずどこかの学校で、美術部の顧問をしているのだろう。
 それを想像すると、自分はもう関係ないのにも関わらず、嫌な気持ちになる。


 もう、自分のような被害に遭う生徒が出ていませんように。

 そう祈りながら、ぎゅっと目を瞑った。
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