初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「どうしても落としたい女のために必要なんじゃなかったのかよ!お前がそんなこと言うなんて珍しいから、笹井さんに頼んでまで二席確保したのに……。当日になって、お前の代わり立てるのに、どれだけ苦労したか!」

 笹井というのは修弥の事務所の先輩である俳優の名だ。修弥が所属している大手事務所の中でもその演技力の高さと色っぽい外見で一際存在感を放っており、30代のイケメン俳優ランキングで毎年上位にランクインしている。
 
 修弥も、若手の中では勢いがある方だが、なんの遠慮もなく、笹井に何かをお願いできるほどの地位にはまだいない。
 苦労して手に入れてくれたのはわかるが、「どうしても落としたい女」に断られたのだから仕方がない。

 しかし、プライドがそれを打ち明けるのを許さず、湊はまた曖昧にはぐらかした。

 「悪いと思ってるよ。けど、行けなかったんだから仕方ないだろ」

 「だから、なんで行けなかったのか聞いてるんだよ。まさか女に断られたわけじゃないんだろ?」

 「……ああ」

 「おい、なんだ今の間は」

 「別に間なんてねーよ」

 「おい!まさか断られたのか!?天下の久我湊様が???」

「大きな声出すな」

 修弥の声が耳にキンキンと響き、思わず眉をひそめる。

 だが、修弥が驚くのも無理はなかった。
 湊が女の尻を追いかけるのも珍しいことだが、湊が女に振られることなんて未だかつてあっただろうか。

 そう考えると、修弥は途端に、自分がとてつもなく貴重な機会を前をしているのではないかと、笑みがこぼれた。
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