初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 夏休み前、最後の通学の日。その日も図書室で勉強するのに飽きた湊は、紫遥に会いに美術室に訪れた。そこにはいつものキャンバスに向かう紫遥の姿はなく、彼女はただ椅子に座ってぼーっと窓の外を見ていた。
 
「先輩?」
 
 声をかけると、紫遥がゆっくりとこちらに顔を向けた。元々表情があまり変わらない人ではあったが、その日はまるで抜け殻のように、意志がない人間に見えた。
 
「今日は描かないんですか?」
 
湊が紫遥の隣に座り、そう尋ねると、紫遥は少しの間黙り込んでから、答えた。
 
「絵を描くの、やめたの」

「え?」
 
 湊は彼女の言葉に耳を疑った。

 (絵を描くのをやめた?それは今日、描くのをやめたという話?それとも美術部をやめたってこと?それとも……まさか美大への進学を諦めるということか?)
 
 たくさんのクエスチョンマークが頭の中に浮かび上がっては消え、頭の中を整理できないまま湊は尋ねた。
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