初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「それに、なぜかはわからないんですけど、紫遥ちゃんは男の人が苦手なんですよ。苦手というか、嫌いなのかな……。だから、男の人と付き合うとか、デートとか、考えられません。親しい男友達なんていないし、会社ではできるだけ男の人と二人きりにならないようにしてるって言ってました。コンビニの店員と手が触れただけでも、鳥肌立ってるくらいですよ?」

 そんなはずはなかった。
 だったら湊が紫遥を抱きしめた時、少なくとも嫌がる素振りを見せたはずだし、ベッドの上でよがったりなど絶対しないはずだ。

「その男性嫌いって言うのは嘘なんじゃないか?大体そんな人間が合コンに参加するとも思えないし……」

 しかし、シーツに残っていた血痕を思い出して、ハッとする。
 
 真夏が言っていることが本当だとすれば、あれはやはり“ハジメテの印”だったのだ。あの時の行為が、紫遥にとって正真正銘初めてのことで、高校の時から彼女の純潔は失われていなかった。
 
 紫遥が色んな男と関係を持つような女性ではなかったことに安心する一方で、ではなぜ、高校生の自分にあんなに大胆なことを言ったのか、そして、なぜあの夜ずっと守ってきた純潔を自分などに捧げたのか、ますます理由がわからない。

 そしてもう1つ、困惑する湊の頭の中には心配事があった。

 先輩の初めてを、自分は復讐心によって奪ってしまった――、ということだった。
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