初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
『今からでも戻ってきたら?』
『とりあえず二次会カラオケにいます。住所送るねー』
『いくらなんでも勝手に帰るのはナシじゃない?ちょっと気分悪いよ』
『ねえ、男と一緒に帰ったって本当?どういうこと?』

 香奈子の怒りと苛立ちが文面から見て取れる。
 
 男と一緒に帰った、というのはおそらく湊のことだろう。湊のことを、あのヒロシという男は香奈子に話したのだろうか。だが、まさか目の前に突然人気俳優が現れるとは思いもしないはずだ。香奈子のメッセージに「MINATO」の文字がないことにとりあえず安心する。
 
 そして、最新のメッセージまで辿り着くと、そこには「月曜日、会社で話そう」との文字があった。

 確かに誘われた合コンを香奈子に黙って抜け出したしまったのはまずかった。メールで謝るよりも、ちゃんと直接謝った方が良さそうだ。
 
 香奈子に「本当にすみません、月曜日直接謝らせてください」とだけ送ったあと、紫遥はシャワーを浴びに浴室に向かった。
 

 ふたつ並んだ広めの洗面台の前に立ち、疲れきった顔に手を伸ばす。

 (私はいつまで引きずるんだろう……)

 昨晩のことを思い出すと、今でも鳥肌が立つ。
 真夏は恋をしろ、と簡単に言うが、こんな状態で、男の人を好きになれる気がしなかった。話すくらいなら普通にできるものの、触られるのはめっぽうダメだった。ゾワゾワと全身が粟立ち、相手を突き飛ばして逃げてしまいたくなる衝動に駆られるのだ。

 でも、湊は違った。
< 147 / 258 >

この作品をシェア

pagetop