初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

24 同居生活にハプニングはつきもの

「……く、久我くん」

 目の前の扉を開いて出てきたのは、湊だった。
 紫遥の姿を見て、驚き目を見開いているものの、整った彫刻のような顔はいつもと変わらない。

(確か久我くんの部屋は1階って言ってたはずなのに、なんでここにいるの?ていうか、こんな格好見られるなんて……!)

 紫遥は混乱しつつも、誤ってバスタオルが落ちてしまわないようぐっと手で押さえた。
 大事な部分は隠れているものの、こんな格好で出くわしてしまうなんて、恥ずかしくてたまらなかった。

「あの、着替え忘れちゃって……」

「……」

「す、すぐに部屋に戻るから!ごめん、こんな格好で……」

 紫遥が気まずさでいてもたってもいられなくなり、真っ赤になった顔を下に向けながら、後退りしていると、ふわりと優しげな香りが鼻腔をくすぐった。

「そのままだと風邪ひきます」

 湊はそう言って紫遥を抱きしめるように、自分が羽織っていたシャツを紫遥の肩にかけた。
 
 シャツから湊の香りをより強く感じ、紫遥の心臓がより一層大きな音でなり始める。先ほどまで着ていた湊の体温が肩から伝わり、なんとも言えない安心感が身体を包み込んだ。

 紫遥は湊のシャツをぎゅっと握りしめ、か細い声で言った。

「ありがとう……」

「……いえ、じゃあ俺今から仕事なんで」

 湊はそう言うと、ふいと紫遥から視線を逸らし、そのまま階段を下って行った。
 羞恥心で縮こまる紫遥とは違い、なんとも思っていないようだった。

(私だけ動揺しちゃってバカみたい……)
< 149 / 258 >

この作品をシェア

pagetop