初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「なんでですか?」

「続けられなくなったから」

「美大は?推薦決まってましたよね?」

「辞退した」
 
 信じられなかった。紫遥は国内でも最難関と呼ばれる美大への推薦入学が決まっていた。つい先日、紫遥の口からその朗報を聞いたばかりだ。珍しく口角を上げて喜んでいたし、合格の通知書を自分に見せる姿はいつもより輝いて見えた。それなのに。
 
「どうして……あんなに喜んでたのに」

「……」

「もしかして、何かあったんですか?」

「……何もないよ。けど、もう決めたの」

「そんなの意味わかんな……」
 
 湊がそう言い終わる前に、紫遥は湊の腕を引き、キスをした。


 それは、湊にとって初めてのキスだった。


 紫遥に好意を抱いていたから、当然嫌じゃなかったし、むしろ嬉しかったが、それよりも驚きが勝った。

 紫遥はゆっくりと唇を離し、目を見開く湊に言った。
 
「冗談だよ。今日はもう疲れちゃって、はやめに片付けただけ」
 
 紫遥の言葉に一気に現実に引き戻され、湊は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
 冗談というのは絵を描くのを辞めると言ったことなのか?それとも……
 
「い、今のって……!」

「キスだよ」

「それはわかってますけど!そうじゃなくて!」
 
 湊は混乱している頭を落ち着かせようと、髪をぐしゃぐしゃとかいた。
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