初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 「あ、じゃあ……」
 
 「……」

 てっきり湊がいないから、すぐに帰っていくものだと思ったが、周はいまだに玄関でニコニコと笑いながら立っている。
 居候の身である自分が人を招き入れるなどしていいのかと考えるが、相手は湊の兄であり、家族だ。追い返すのはかえって失礼じゃないだろうか。

 「あの、お茶でもいれるので、よければ中にどうぞ」

 紫遥が中に招き入れると、周は待ってました!と言わんばかりの笑顔で「ありがとう!お言葉に甘えさせていただくよ!」とズカズカと部屋の中に上がり込んだ。


 ソファーに悠々と足を組んで座る周の前に、緑茶を置き、チラリとその姿を見た。
 湊にそっくりな整った顔ではあるが、微笑みを浮かべているからか、いつもクールな、歯に衣着せぬ言い方をするならば、無愛想でツンとした湊とは、雰囲気がまったく違う。

「湊との同居はどう?紫遥ちゃん、振り回されてない?」

 紫遥が周と少し距離を起き、同じソファーに腰掛けると、周は心配そうに問いかけた。

「いえ、振り回されてなんて……逆に私の方がいつも助けてもらってばっかりです」

「じゃあ、もう湊とはヤッたんだ?」

「え!?」

 周は天気でも聞くような調子で、湊との男女関係の有無を聞いた。
 紫遥は驚きを隠せず、口をポカンと開けたまま周を見つめ返す。

「まあ、聞かなくてもわかるか。湊が女を家に連れ込んで、ヤッてないはずないし」

「ご、誤解です。私たちは別に……!」

「あ、大丈夫だよ。湊には紫遥ちゃんから聞いたとは言わないでおくからさ!」

 あっけらかんと言い放つ湊の言葉に、紫遥は口をつぐむ。
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