初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 湊の笑顔は一切の陰りもなく、リビングに入ってきた時の表情とはまったく違った。もしかすると、さっき見た不機嫌そうな表情は見間違いなのかもしれない。そう考え直すも、湊の笑顔は、まるで完璧に繕った仮面のようで、湊は自分たちの前でも演技をしているのではないかと不安になる。

「じゃあ、ゲームやろっか。明日学校だし、1時間だけね」

「うん!」

 湊の様子に違和感を感じつつも、ゲーム機を持って嬉しそうにする真夏を見て、紫遥はこれ以上詮索するのはやめようと口をつぐんだ。


 約束の1時間が過ぎると、湊に対して従順な真夏はすぐにゲーム機を片付け、「おやすみなさい」と言って2階に上がっていった。

 ちょうど紫遥も洗い物やシンクの掃除を終わらせ、そろそろ寝る準備をしようかと2階にあがろうとすると、湊に呼び止められた。

「先輩、聞きたいことがあるんですけど。今、いいですか」

「いいけど……」

 湊に促されるまま、ソファーに腰掛けると、湊も少し間を空けて隣に座った。
 湊の顔にはもうさっきまでの笑顔はなく、何か言いたげな顔で俯いている。

 なかなか話し始めない湊に、もしかして自分が何かしてしまったのだろうか、と考え、昼間、周を家にいれてしまった事を思い出した。

「もしかして周さんのこと?」

 紫遥がそう言うと、湊はハッと顔をあげた。

「やっぱりそうだよね。ごめん、勝手に周さんを家にあげちゃって。せっかくいらっしゃったのに、このまま帰しちゃうのも失礼かなって思って」

「そう、ですか……」

 湊はそう言って、険しい顔で紫遥から目を逸らした。
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