初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 確かに人を勝手に家にいれてしまったことは悪いと思っているが、それ以外に後ろめたいことは何もない。それなのに、湊の口数が少ないからか、紫遥は饒舌になった。

「もしかして久我くんって、周さんと仲悪いの?この前も楽屋お邪魔した時も、何か言い合ってたし、今日周さんが久我くんのこと話してる時も……」

「いつからですか」

 湊の怒りに満ちた声がリビングに響き、紫遥は驚いて目を丸くした。

「え?」

「兄さんと、いつから名前で呼ぶような親しい関係になってるんですか?」

「え……親しいって別に」

 周と特別親しくなったから名前で呼んでいるというわけではなく、ただ周に、「名前で呼んでよ」と言われ、言う通りにしているだけだった。

 あの時、自分の頬を撫でる周の手を振り払い「ごめんなさい、触られるの苦手で」と言い放ったあと、周の行動が不快だったとはいえ、世話になっている人の兄に、冷たく接してしまったことに対する罪悪感で、彼の些細な要望を断れなかったのだ。

「周さんが、そう呼べって言うから……」

「そうですか」

「なんでそんなこと……? んんっ……!」
 
 すべて言い終わる前に、紫遥はいつの間にかソファーに押し倒され、唇を奪われていた。

 手の自由が奪われ、湊の柔らかな舌の感触が口内を侵食し、心臓がバクバクと大きな音を立てる。お互いの唾液が絡み合い、全身がとろけてしまいそうな甘さが口の中に広がった。

「……っ!何して……真夏が起きちゃ……んっ!!」

 紫遥が一瞬の隙をついて顔を背け、抗議するも、またグイと顎を抑えられ、さっきよりも激しく唇を奪われた。

「んっ……!んんっ!」
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