初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

27 湊の後悔

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「MINATOさん、もしかしてほとんど寝てないとかですか?」
 
 湊の目の下に出来たクマを、コンシーラーで必死に隠していたメイク担当の女性は、ほぼ窪み同然の頑固なクマに、完全に隠すのを諦めたのかようやく手を止めて、湊に尋ねた。

「はは……やっぱわかります?」

 ほとんど寝ていない、どころか、昨日は一睡もできなかった。それに加えて、連日の撮影で元々疲弊していたのもあり、自分の顔がメイクなどではカバーできないほど酷いことは自覚していた。
 
 昨夜、紫遥に突き飛ばされ、無惨な姿でリビングに残された湊は、嫉妬から無理やり紫遥に襲いかかってしまったことを激しく後悔し、そのままソファーに突っ伏し、呻き声をあげた。

 2階の部屋に行って謝ろうかとも思ったが、部屋には真夏もいるし、あの様子ではまともに取り合ってくれないだろう。
 
 紫遥は相当怒っていた、と思う。途中まで弱い抵抗だったから、受け入れてくれたのだと思い込んでいたが、それは大きな勘違いだったのだ。
 
 メイクとヘアセットが終わり、楽屋で一人きりになると、湊は大きなため息をついた。今日も朝早くに家を出たから、結局紫遥とは顔を合わせていないままだ。もしかしたら今晩家に帰ってこないかもしれない。責任感が強く、真面目な紫遥のことだ。出ていくにしても何か連絡はくれそうではあるが……不安だった。そうでなくとも、自分を避けるであろうことは容易に想像出来る。

「なんであんな事しちゃったんだろ……ダサすぎるだろ、俺」
 
 少しでも力を抜くと目に涙が滲みそうになる。湊は完全に弱っていた。
 
 このままでは撮影にも支障が出る。気晴らしに太陽の光でも浴びようと、湊は暗い顔で楽屋を出た。
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