初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 自分の家庭環境は特殊ではあったが、両親には愛されて育ったと感じているし、いつか両親と同じように自分も子供を愛し、育てていくのだろうと思う。
 
 湊の父はほとんど家にいなかったが、何不自由ない生活ができるよう援助してくれたし、母は思春期には鬱陶しく感じるほど過保護だったが、それも子を心配しているからこそのものだとわかっていた。
 メディアで色々と言われているように、優秀で変わり者の兄二人との仲は良くないにしても、殺したいほど憎い相手というわけでもない。

 だからこそ、紫遥が自分の過酷な家庭環境について、あっけらかんと話す様子に、高校時代の湊は衝撃を受けたのだ。
 
 ひとり親で紫遥の面倒を見るはずの母親はろくに家に帰って来ず、小学生の頃から家事をこなし、高校に入ってからはバイトを掛け持ちしながら大学に進学するお金をコツコツと貯め、自分一人の力でたくましく生きている。湊の知る限り、そんな高校生は周りに一人もいなかった。

そして、そんな環境にも関わらず、紫遥は自分の将来を諦めていなかったのだ。

 そんな紫遥に憧れていた。そして、その憧れはいつしか恋心へと変わっていったのだ。

「いつか、いつか、って言ってると婚期逃すぞ〜。ほら、そうやって先延ばしにして、高校の時も仮屋に告白しそびれてただろ」

 山口の口から、突然紫遥の名前が出たことに驚く。そう言えば、美術部の顧問である山口は紫遥とも親しく、紫遥が高校を中退したことも、山口から聞いて知ったのだ。もちろん高校生男児の淡い恋心にも、気付いていて当然だ。

「あれは、だって……突然中退なんてすると思わなかったんで」
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