初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 注文を取りに来た店員が下がってからすぐ、香奈子はそう話を切り出した。

「すみません。久しぶりにお酒を飲んだので気持ち悪くなっちゃって……途中で抜けて帰るのは悪いとは思ったんですけど、本当にすみません」

 そう言って頭を下げる紫遥に、香奈子は呆れたように首を振った。

「違う違う。私が聞いてんのは、なんで”男と”帰ったか、ってことなのよ。もしかして最初から、途中で抜けて彼氏と帰ろうとしてたわけ?」

「いや、彼氏では……」

 おそらく湊のことを言っているのだろう。しかし、湊は彼氏でもないし、一緒に帰ろうとして帰ったわけでもない。
 
 事情を説明するために、まずは香奈子の友人だという男に、無理やり家に連れ込まれそうになったことから話すべきだろうか。けど、そんなことを言っても、香奈子に「ヒロシがそんなことするわけないじゃん!何勘違いしてんの?」と逆ギレされる未来が想像できてしまう。

 紫遥はなんと説明すればいいか悩み、言葉を濁らせていると、香奈子は大きなため息をついた。

「あのさ、いつも思ってたんだけど、仮屋さんって本当に人を苛立たせるの好きだよね」

「え?」

「せっかくこっちが歩み寄ってやってんのに、ダンマリとかないから。社長令嬢か箱入り娘かなんだか知らないけどさ、そうやって黙って俯いて、被害者ぶってたら、男が助けてくれるとでも思ってんの?わざとらしいんだよ」

「……」

 黙り込む紫遥に、さらに香奈子の言葉はエスカレートした。
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