初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

29 感情の爆発

「紫遥ちゃん?どうしたの?」

 突然大きな声を出した紫遥に驚いた様子で、真夏は山口と紫遥を交互に見た。

「ごめん大きな声出して……ただ……」

 真夏には、山口が誰かだなんて、話せるはずがなかった。この8年間、必死に隠し続けてきたことなのだ。
 
 紫遥が言葉に詰まるのを見て、山口が真夏に優しく話しかけた。

「おじさんね、お姉さんの通ってた高校の先生だったんだよ。美術部の顧問してたんだ」

 すると、真夏の顔がぱあっと明るくなった。

「そうなんですね!だから、湊さんのことも知ってるんだ!」

「そうそう。しかも、あいつの担任もしてたから、二人とは結構深い仲なんだよ」

 深い仲、という言葉に紫遥はゾッとした。自分と山口と深い仲であるのは、山口が勝手に紫遥の中をこじ開けたからだった。決して良い思い出でもないし、思い出したくもなかった。
 
 一方、そんな紫遥とは対照的に、山口はまるで二人の間に起こった、都合の悪いこと全てを忘れ去ってしまったかのように、カラッと笑った。

「仮屋は俺の娘みたいなもんだよ」

 紫遥の顔は明らかに強張っていたが、山口はそれに気付いていないのか、もしくは気付いていないフリをしているのか、話を続けた。

「この前偶然久我と会ってさ、ちょうど仮屋どうしてるかなーって話になったから、今日気を利かせて飲み会開いてくれたのかもな。高校の時はお前らいつも一緒にいたけど、今でも仲良いのか?」

 紫遥はできるだけ山口と言葉を交わしたくはなかったが、真夏の手前、無視するわけにもいかなかった。
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