初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 そんな過去を思い出し、逞しく男らしくなった湊を紫遥は見つめ返した。彼は今一人きりで立っている。それだけでなく今は、一人でやっとのことで立っている紫遥を支えようとしてくれているのだ。
 
「俺は先輩のことも、もちろん真夏ちゃんのことも守ってあげたいと思ってます。俺と先輩が結婚すれば真夏ちゃんを養子にいれることができるし、先生も簡単には手出しできないはずです。だから……」

「けど結婚なんて……女性ファンが離れて仕事もなくなるんじゃ」

「別に俺アイドルじゃないので、そもそも恋愛禁止じゃないんですよ。町田は色々うるさいんですけど」

「けど、スキャンダルのことは?記事が出たら、仕事なくなるって言ってたでしょ?」

「ああ、あれは先輩を守るための嘘です」

「う、嘘!?」

「犯罪者にでもならない限り、演技の仕事はなくなりませんよ。それに万が一、スキャンダル撮られて多少仕事が減ったとしても俺はよかった。けど、タチの悪いファンが先輩に嫌がらせをし始めたら?記者が先輩に付き纏って、プライベートに干渉してきたら?俺はそれが嫌だったんです。それに……」

 湊が少し言うのをためらったあと、ボソリと呟いた。

「ただ先輩の近くにいたくて」

「……っ!」

 湊に甘い言葉を投げかけられるだけで、耳がかあーっと熱くなるのを感じる。
 テレビの中ではどんなキザな言葉も自分のものにし、多くの女性を虜にしているというのに、目の前の湊は自分の発した言葉に照れているようだった。MINATOらしくない。だけど、紫遥の知る久我湊は、こんな風に不器用で、彼の発する言葉はいつも真っ直ぐだった。
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