初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

32 お忍びデート

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 夢のような一夜を過ごした翌朝、湊はすやすやと気持ちよさそうに眠る紫遥を起こさないように、こっそりとベッドから抜け出し、仕事に向かった。
 朝起きた時、好きな人が隣にいることが、こんなにも幸せなことだなんて思わなかった。これまでは、恋人であっても朝まで一緒に過ごすことはなかった。無理やり泊まっていく女もいたが、朝起きた時の湊の不機嫌な様子に、起きて早々帰っていく者ばかりで、湊が朝、隣で眠る女の寝顔を愛おしいなどと思ったことは一度もない。
 
 撮影現場のオフィスビルに入ったあとも、頬の緩みが抑えきれず、共演者に怪訝な目で見られたが、気にしない。今なら監督からのどんな無理な要望にだって答えられそうだった。
 
 今回は俳優仲間の修弥が主演を務めるドラマのゲスト出演のため、湊のシーンは今日1日で撮り終わる予定だった。
 一番長いシーンが終わり、休憩に入ろうとケータリングの方に行くと、ちょうど休憩に入ったのか修弥が声をかけてきた。

「湊、なんか今日調子よくね?いいことあった?」

「まあね」

「こないだ女に振られたばっかなのに、もう新しい女か?」

「だから、振られてない」

 振られていないどころか、今はその人と恋人同士であるのだ。修弥にそう言ってしまいたかったが、口が軽い男に話せばあっという間に話は広まってしまう。
 ここは我慢だ、と湊は口をつぐんだ。

「悪い悪い、そんな拗ねんなって。それより今日さ、アイドルの子と飲み会あるんだけど来るよな?」

「お前クランクアップまだだろ。そんな余裕あんのか?」
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