初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
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「紫遥ちゃんさ、湊さんと付き合ってるんだよね?」

 日曜日の朝、ベーグルを頬張っていた紫遥に、難しい顔をした真夏がそう尋ねた。

「うん。多分」

「じゃあ、なんでこの一週間会話もしてなければ、連絡もしてないわけ?」

「だって、忙しそうだし……」

「どんなに忙しくたってメールくらいできるでしょ!連絡してみたら?」

「うーん……」

 紫遥は考え込むも、やはり激務の湊に自分から連絡するだなんて許されない気がした。

 マネージャーの町田の話によれば、ドラマや雑誌の撮影に加え、番宣のためのバラエティー出演など、湊のスケジュールは今パンク状態のようで、心を通わせたあの日から、紫遥は湊と一度も顔を合わせていない。それどころか、この一週間連絡すらしていないのだ。本当に自分たちは付き合っているのか、不安になるのも当然だった。

「やっぱり全部夢だったのかも……」

 初恋の人とまた出会えただけでも奇跡であるのに、人気俳優である湊から求婚されるだなんて、普通だったらありえない話だ。あの時は、嬉しくて深く考えもせずに承諾したが、そもそも湊の両親は許してくれるのだろうか。
 考えれば考えるほど、いろんな心配事が紫遥を襲う。

「そんなわけないじゃん!ちゃんと付き合おうって言われたんでしょ?」

「付き合おうっていうか……結婚しよう、って」

「え!?結婚しよう!?」

「結婚してくれませんか?だった気もする」

「いや、言い方の違いはどうでもいいんだけど!」
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