初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 真夏は頭を抱えた。自分は紫遥よりずっと年下ではあるが、紫遥よりは恋愛の経験も知識もあるつもりだった。しかし、大人の考えることはわからない。普通恋人を通り越して、求婚する男性がいるものなのだろうか。それとも、そんなことをするのはあの久我湊だからなのか?
 真夏はふぅーと大きく息を吐き、それから腰に手を当てて言った。

「とにかく、私たちであーだこーだ言ってても解決しない!こうなったら湊さんに直接聞いてみよう!スマホ貸して!」

「え!ダメダメ!今、仕事中だろうし……」

「メールなら仕事終わったあとにでも見れるでしょ!いいから貸して!」

「なら私がメール打つから!」

 紫遥が必死に腕を伸ばし、真夏からスマホを遠ざけるが、中学に入って急激に身長の伸びた真夏の手から逃れるのは大変だった。
 二人が「貸して!」「ダメ!」の言い合いをしていると、紫遥の携帯が鳴った。

「湊くんだ……」

 画面を見ると、湊からの着信だった。真夏に「はやく出て!」と急かされ、急いで電話をとる。

「もしもし……」

「あ、紫遥さん?急なんですけど、今夜空いてますか?」

「うん、空いてるけど」

「よかった。じゃあ、今夜デートしましょう。八時ごろ迎えに行きます。またあとで」

 紫遥が何か言う前に、電話はプツッと切れた。
 呆然とする紫遥に、真夏が詰め寄る。

「湊さん、なんて?」

「今夜デートしようって」

「え〜よかったじゃん!どこいくの?」

「わかんない。けど、夜迎えにくるって」
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