初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 誰かと付き合った経験がない紫遥でも、恋人同士は連絡を密に取り合い、好きだの愛してるだのを言い合うものであることは知っている。
 それなのに、同じ家に住んでいるのにも関わらず、会えないどころか一切連絡をしないのは、忙しい以外の理由があるんじゃないか。そう不安になっている自分もいたが、それを湊にそのまま伝えてしまうのも重い女のような気がして、憚られた。

 湊と当たり障りのない話をしながらも、頭の片隅ではそんなことを考えていると、いつの間にか車が人気の少ない駐車場に停止した。
 紫遥はハッとして、窓の外を見る。

「着きましたよ」

「え……ここって」

「桜ヶ丘遊園地。紫遥さん、行ってみたいって言ってたから」

 紫遥たちの通っていた高校から電車で十五分ほどの桜ヶ丘遊園地は、地元の人たちが一度は行く娯楽施設だった。
 古い遊園地ではあるが、毎年クリスマスシーズンになるとカップルたちは皆ここに行くのが定番らしく、同じ学年のカップルたちがこぞって行っていたのを思い出す。
 
 眩しくて目を細めてしまうほど煌びやかなライトアップに、賑やかで明るい音楽、幸せそうな人々の笑い声。桜ヶ丘遊園地は、当時想像していた通りの場所だった。
 紫遥は小さい頃から、家族でこの場所に来ることに憧れていた。同級生の中で桜ヶ丘遊園地に行ったことがない人はいなかったし、母親が出ていった後は、はやく就職してお金を稼いで、幼い真夏を絶対に連れて行くんだと心に決めていた。
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