初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 だから高校時代、湊に今一番行きたいところは?と聞かれて、この遊園地の名前を出したのだろう。自分でもはっきりとは覚えていないことを湊が覚えていることに驚いた。

「けど、もうすぐ9時になるし閉園しちゃうんじゃない?」

 閉園十五分前の駐車場には、停まってる車も少なく、遊園地の出口からは帰路に着く客がチラホラ見えた。

「大丈夫です。今夜は貸切にしてるんで」

「貸切?」

「ここの社長が親父の友達で、閉園後も特別に2時間だけ開けてもらえることになったんですよ」

 数ヶ月前の紫遥なら大きな声をあげ驚いたところだが、最近は湊の口から出るスケールの違う話にも徐々になれてきた。
 そうなんだ、と相槌を打ちながら、一体ここを貸切にするのにはいくらかかるのだろうかと、別の心配が頭の中を占めた。

「じゃあ、行きましょうか」

 湊に手を差し出され、紫遥はおそるおそるその手を取った。
 暖かくて、ゴツゴツした男の人の手。だけど、恐怖は感じなくて、大きな手に自分の手が包み込まれていることにむしろ安心感を感じた。

「ねえ、あの人かっこよくない?」

 車から出て湊と手を繋ぎながら入り口に向かって歩いていると、遊園地からちょうど出てきた若い女子高生たちが、こちらを見てコソコソと噂しているのが耳に入った。

「思った!てか、MINATOに似てる気がする」

「確かに……だとしたらヤバくない?誰、隣にいる女」

 その言葉に、思わず紫遥はバッと手を話した。

「紫遥さん?」

「あそこにいる女の子たちに、バレてるかも。今、MINATOに似てるって言ってた」
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