初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 顔を伏せ、小声でそう言うと、湊はちらりと女子高生の方に目を向けたあと、サングラス越しににっこりと微笑んだ。

「だったら、見せつけてやんないと」

「え?」

 湊がマスクを下に引っ張り、顔を露にしたかと思うと、そのまま紫遥に口付けをした。

「!?」

 バレたらどうしようという不安と、誰かに見られているという恥ずかしさで、湊の胸板をバンバンと叩くが、その手も湊に捕まれ身動きがとれないまま、ただ湊の唇を受け入れるしかできなかった。
 涙目になりながら目をうっすらと開けると、こちらをチラチラ見ていた女子高生たちが、気まずそうに離れていくのが目の端の方に見えた。

「うわ、ラブラブ〜」
 
「本物のMINATOだったら、あんな大胆にキスできないか」

「そりゃ、そうだ。てか、MINATO似の彼氏とか羨ましすぎるんだけど!!」

 女子高生たちがやっと見えなくなった頃、湊がようやく唇を離した。
 
「ちょっと、何してるの!」

 紫遥が湊の唾液で濡れた唇を手で拭うと、湊はイタズラっ子のような笑みを浮かべ、言った。

「こんなところでキスする男がMINATOだとは誰も思わないでしょ」

 それはそうだが、突然のキスは心臓に悪い。
 紫遥は火照る顔を冷えた手で必死におさえた。





****
 
 そんな二人から少し離れたところに、一台の高級外車が停まっていた。
 その助手席に座っていた、上品な毛皮に身を包んだ夫人は、二人の様子を見てため息をついた。

「どう考えても、湊にはふさわしくないわ。なんでいつまでもあんな子に振り回されてるのかしら」
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