初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

33 初めての心配事

 閉園の時間が過ぎ、残っていた客もいなくなったころ、年配のスタッフに誘導され、裏口から閉園した遊園地に入った。
 キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認した湊は、マスクとサングラスを外し、思い切り深呼吸した。

「うわー!プライベートで遊園地とか久々すぎる!最高!まず、どれから乗ります?」

 無邪気にはしゃぐ湊を見て、思わずクスッと笑ってしまう。学生時代に比べ逞しくなり、大人っぽい表情を見せる湊も、こんなふうにはしゃいでいるとなんだか懐かしくて、愛おしい気持ちになる。
 すると、湊が拗ねたような顔をして、紫遥の手をぎゅっと握りしめた。

「俺だけですか?こんなに浮かれてるの」

 湊の頭に、子犬のように垂れ下がっている耳が見えた気がした。

「ごめんごめん。なんか可愛くって」

「昔からそれ言ってますけど、俺のこと可愛いって言うの紫遥さんくらいですよ。俺身長も高い方だし、オファーされるのも男っぽい役柄ばっかなのに……」

「あ、可愛いってそう言う意味じゃなくってね」

「?」

「私の言う可愛いは、愛おしいって意味だよ」

 紫遥がそう言うと、湊は目を大きく見開いたかと思うと、すぐに目を伏せ頭の後ろを照れたように撫でて呟いた。

「本当にずるい人だな……」

 


 それから二人はありったけの乗り物に乗った。初めて乗るジェットコースターは、思った以上に爽快で、気持ちがよかった。絵本の中でしか見たことのなかったメリーゴーランドも、街が一望できる観覧車も、紫遥にとってはすべて初めての経験で思わず目を輝かせた。
 湊はそんな紫遥を見て、そっと微笑んだ。
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