初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
　夜空に打ち上げられた花火は、今まで見たことのないくらいの輝きで、紫遥はその眩しさに目を細めた。

　今まで、こんなにも近くで花火を見たことがあっただろうか。夏休み、バイト先の窓から見える小さな光や、アパートから聞こえる花火の乾いた音。全部、紫遥にとっては孤独を感じさせるもので、遠くで花火があがっているのを見るたびに、花火を心から綺麗だと思えるのは特別な人だけなのだと思っていた。
　
　無言のまま空を見上げていると、そのまま花火の光の中に吸い込まれてしまいそうで、クラっと体がふらついた。すると、湊がそっと背中に手を当てて支えてくれた。
　コート越しでも伝わる手の温もりが安心する。紫遥は遠慮がちに頭を湊にもたれさせた。
　すると、しばらくして湊がぽつりと呟いた。

「……紫遥さん。何か俺に不満あったらいつでも言ってくださいね」

「え？」

　予想外の言葉に、紫遥はきょとんとした顔で湊を見た。

「ここに来るまでの間、何か考え事してるみたいだったので……もしかしてまた先生と何かあったんですか？それとも他の男が……」

　いつも通りに振る舞っていたつもりだったが、湊の洞察力には敵わないようだ。
　紫遥は慌てて、手を振った。

「ううん、違うの！ただ……」

　湊に不満があるわけではない。ただ少し気になることはあった。
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