初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「はじめまして、湊の母の久我聡子です。ごめんなさいね、私だけこんな格好で。今日はお茶会があったからお着物のままなの」

「いえ、お気になさらないでください。私こそこんな格好で……」

「そうね。この家には相応しくない格好だわ」

 口調は柔らかいものだったが、その言葉には、明らかな棘が含まれていた。
 しかし、上品な微笑みを浮かべたまま、目の前の女性は紫遥をじっと見つめた。

「それでさっそく本題に入るんだけれど、湊と別れてくれないかしら?」

「え……?」

 一瞬、聞き間違いじゃないかと自分の耳を疑う。

「今日はその話をするためにあなたを呼んだのよ」

 しかし残念ながらそれは聞き間違いでもなんでもなく、紫遥をじっと見つめる湊の母親の目には、息子を奪った女に対する敵意が滲んでいた。
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