初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「……っ! どこがですか!」

「湊くんを守るために一生懸命だし、私のことが嫌いなはずなのに気を遣って泊めてくれるし……」

「あの人は俺を縛りつけたいだけですよ!それに、紫遥さんを泊めるのも当然です!あの人がこんな夜遅くに呼び出したんですから!紫遥さんもさっき色々言われたんでしょう!?あの人は、学歴とか家柄とか、そんなくだらないものでしか人を評価できないクソみたいな人間なんですよ。だから気にしないで……」

「けどそれは全部、湊くんが心配だからだよ」

 紫遥の言葉に湊は口を噤む。

「たしかに、学歴とか家柄だけで人を評価するのは間違ってるって私も思う。けど、人の本性を見抜くのって難しいじゃない?長い間一緒にいる人でも、その人が本当はどんな人なのか知るのって難しいよ。私が山口先生を見抜けなかったみたいに」

 紫遥は憂いを帯びた瞳で湊を見つめた。

「だからお母様は、わかりやすい学歴とか家庭環境とか、そういう基準で、湊くんに近づく人を判断するしかないんじゃないかな」

「……」

 湊の想像に反して、紫遥は突然母に呼び出され、交際について反対されたことを気にしていないようだった。
 面と向かって「別れろ」などと言われ、昭和気質な母のことを嫌うであろうと思っていたが、むしろ紫遥にとって息子を心配する母親は新鮮に映ったようだ。

「けど、別れろって言われても私だけで決められることじゃないから。湊くんと話しますって伝えたよ。生意気だって思われたかも」

 紫遥が頬を指でかいて、照れくさそうに笑う。
 そんな彼女を抱きしめたい気持ちに駆られたが、もし母親に見られでもしたらと思うと簡単には触れられない。今、触れたら止まらなくなりそうだ。

「俺は、別れるつもりないですから」

 湊ははっきりとした口調でそう言った。
 その言葉を聞いて「うん、私も別れたくない」と答える紫遥に、湊は優しいキスを落とした
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